
すべての始まりは、今から15年ほど前に遡ります。当時、CHAINの前身となるシャンプー「セルメイド」のメーカー担当者だった川岸が、ある美容室で製品説明会を開きました。そこに参加していたのが、当時アシスタントだった永沢でした。
「当時のメーカーさんの講習というと、成分の話やキャッチーな謳い文句が中心でした。でも、川岸さんのお話は全く違ったんです」。永沢は、15年前の出会いをそう振り返ります。川岸が語ったのは、単なる商品知識ではありませんでした。それは、「美容師として、お客様の悩みにどう向き合うか」という、より本質的な問いかけ。この先、自分たちがプロとしてどうあるべきか、その一つの基準を示してくれるような、未来に繋がる内容だったのです。
この、他とは一線を画すアプローチに、永沢は強く心を動かされます。売り手と買い手という立場を超え、一人の人間として川岸の情熱に共鳴した彼女は、すぐに行動に移しました。講習後、永沢から川岸に声をかけたその瞬間から、二人の長い物語が始まったのです。 二人の交流が始まると、永沢はセルメイドが持つ本当の価値を深く理解していきます。お客様の髪質改善を追求する中でセルメイドの効果を自身で実感し、異動先の店舗でも自費で購入してお客様に使用し続けるほど、その価値を確信していました。このシャンプーを使うことで、ブロー時間が短縮されるなど、スタイリストとしての施術効率も向上したと語っています。
その情熱に応えるように、川岸もまた、永沢氏が店舗を移るたびに駆けつけ、勉強会を開きました。関東でのセルメイドの広がりは、まさに彼女の移動の軌跡と重なっていたと言います。その関係は、彼女が活躍の場をニューヨークに移しても、途切れることはありませんでした。「いつか、この人と一緒に何かをやりたい」。それは、二人の間でいつしか共有された、確かな想いでした。

永沢が帰国した2019年、一度は「一緒にお店を」という話が持ち上がりますが、「まだ機が熟していない」とお互いが感じ、保留に。その後、永沢は青山のサロンで経営や集客のスキルを吸収し、来るべき日に備えました。
<そして2022年の正月、運命が動きます。川岸が「永沢さんと一緒にお店をやっている夢」を見たのです。「これはもう、今しかない」。そう直感した川岸氏は、長年温めてきた想いを永沢氏に伝えました。「僕らの夢の店をやりましょう」。こうして、15年来の想いが、ついに形になるべく動き出したのです。
このプロジェクトには、もう一人、欠かせない人物が加わりました。ニューヨークで永沢と共に働いた経験を持つ、堀内です。彼もまた、永沢を通じてCHAINのシャンプーの価値を知り、その考え方に深く共感していました。帰国後は地元での独立を考えていた彼ですが、永沢から環然美の構想を聞き、そのビジョンに心を動かされます。「ぜひ、一緒に働きたい」。彼の参画が決まったのは、オープンまでわずか2週間前のことでした。
「永沢さんという存在がハブとなって、僕も堀内さんもここに集まったんです」と川岸は語ります。それぞれの場所で、同じ製品を信じ、同じ価値観を共有してきた三つの点が、運命に導かれるように一つの線となり、「環然美」という物語を紡ぎ始めたのです。

環然美の全ての判断基準は、「お客様にとって良いかどうか」という点に集約されます。単に髪を切る場所ではなく、お客様の「人生の一部を楽しんでもらう」ことを目指しており、施術はもちろん、空間、提供するお茶やお菓子、サロン周辺の地域情報に至るまで、トータルでのおもてなしを追求しています。
このサロンが掲げるコンセプトは、「めぐる、しかるべき、うつくしさへ」。このコンセプトは、植物が芽吹き、枯れていく一生に人間の成長と変化を重ね、加齢をポジティブに捉え「その時々の美しさを楽しむ」という思想に基づいています。お客様一人ひとりの悩みに向き合い、頭皮に薬剤をつけない「ゼロテク」カラーなど、将来にわたって美しさを維持できる技術を提供しているのです。


CHAINが大切にする「瞬間美ではなく、今とこれからをつなぐ」という哲学は、環然美のあらゆるサービスに息づいています。環然美では施術当日の美しさはもちろん、お客様が自宅に帰ってからも、そのスタイルを自分で再現し、長く維持できることを重視。そのための細やかなカット技術や、日々のホームケアに関する提案も徹底しています。
その想いを実現するため、ここは時間に追われることのないプライベートな空間として設計されました。マンツーマンに近い体制のため、お客様は時間に追われることなくリラックスでき、スタッフも一人ひとりに誠実に向き合うことが可能。シャンプーの際にはそっと照明を落として音楽を変えるなど、心からリラックスしてもらうための細やかな配慮も、この場所ならではのおもてなしです。
技術、空間、そして人。そのすべてが調和し、訪れる人を本来の自分へと還してくれる。環然美は、そんな唯一無二の体験を提供しています。

環然美が大切にするお客様との深い関係性は、いくつかの事実にも表れています。一度訪れたお客様の次回予約率は、ほぼ100%。そのため、新規のお客様は、既存のお客様の転居などで空きが出た場合にのみ、ご案内しているという状況です。お客様からも「周りの人から髪が綺麗になったと褒められて自信が持てるようになった」「年齢を理由に諦めていたロングヘアに初めて挑戦できた」などといった喜びの声をいただくことも多く、それらは永沢や堀内にとって何よりの励みになっています。

しかし、人々がこの場所に通い続ける理由は、髪が美しくなるという結果だけではありません。「永沢さんと話していると、髪の悩み相談だったはずが、いつの間にか人生相談になっているんです」と、あるお客様は笑います。髪だけでなく、心に溜まったものまで洗い流してくれるような、「デトックスできる場所」だと多くの方が感じているのです。施術を終えて店を出る頃には、誰もが晴れやかな表情に変わっています。
「お客様は、『お店に行く』というより、『永沢さんや堀内さんに会いに行く』という感覚で来てくださっているんだと思います」。 川岸がそう分析するように、技術への信頼はもちろんのこと、作り手である二人の人柄そのものが、お客様を惹きつける大きな魅力となっています。お客様の日常に寄り添い、その人生がより輝くためのささやかなきっかけを提供する。それこそが、環然美が最も大切にしている価値なのです。

環然美は、CHAINが持つ製品への想いや哲学を、最も色濃く、高い熱量でお客様に直接伝えられる唯一無二の場所です。ブランドの世界観を体現するフラッグシップストアとしての重要な役割を担っています。
そして今、環然美は新たな扉を開こうとしています。近い将来、新たにヘッドスパなど、髪以外の分野の専門家がチームに加わる予定です。これは、単なるメニューの追加ではありません。お客様への提供価値をさらに高めると同時に、スタッフが心身ともに健やかに働き続けられる環境を整えるという目的もあります。この参画によって、環然美のケアは「髪」から「心身」のホリスティックな領域へと広がっていきます。
「環然美を、単なる美容室ではなく、様々な分野のプロフェッショナルが集い、お客様が本来の自分と出会える『プラットフォーム』のような場所にしていきたい」。川岸氏が語る未来は、希望に満ちています。今後の店舗展開については、同じ理念と熱量を共有できる人材との出会いがあれば可能性はあるものの、人を基軸としない拡大は考えていない、と言います。
15年の歳月をかけて、一つの想いから生まれたこの場所。環然美が紡ぐ物語は、美しさとは瞬間的に手に入れるものではなく、自分自身と丁寧に向き合う時間の中でゆっくりと育んでいくものであることを、静かに教えてくれます。作り手から使い手へ、そして人から人へ。その温かな連鎖こそが、未来の輝きへとつながる、CHAINの哲学そのものなのです。


